すめらみこと
いやさか
私はお金に感謝します
ありがとう
(無署名)
[奈良市 春日大社]
「すめらみこと」というのは、天皇のことである。
そして、「いやさか」というのは弥栄、つまり、ますます栄えるという意味だ。
つまり、この願主は天皇もしくは天皇家の繁栄を願っている、春日大社の神様に向かって。
そもそも春日大社というのは、天皇家の外戚となってその権力を奪い取った藤原氏の氏神なのであるから、そういう願いをするのは筋違いなのだが、まあ、それはよい。
どうせ、付けたしだろうから。
この願主の言いたいことは後半部分にある。
「何だかなあ~」と、嘆息せざるを得ない。
お金がほしいとか、お金に困っているとかいう話でないのは明らかだ。
最近、大金が転がり込んだか、カネがたくさんあるお蔭で何やら非常に良い目に遭遇したか。
精一杯好意的に解釈しても、お金で難を逃れたというところであろう。
それにしたって、春日大社の神様の守備範囲ではない。
第十一講の願主と同じような類の、ちょっと嫌な感じ、いや、ちょっと妬ましい感じがする願文である。
この願主は、その性格か恵まれた境遇のせいで、周囲の人からあまり好かれていないだろうというのは、あまりに嫉妬が過ぎるだろうか。