[ねがい]
お肉をざる
いっぱいたべたい。
久留米市▽▽一丁目××番×号
浜野裕也
[久留米市 水天宮]
人間の基本的欲求のひとつ、食欲に関する、ごく素朴な願いである。
人間にとって基本的な欲求の充足は、非常に重要である。睡眠欲しかり、性欲しかり…、ほかに思いつかないが。
だから、食欲に関するこの願主の願いも何ら批難には値しない。どころか、考察対象にすらならない。たぶん子供らしい筆跡から、素直で正直な願いごとだなと微笑ましくなるだけである。
しかし、お肉を「ざるいっぱい」とは、どういう意味だろう。
この願主の家庭では、通常、肉類はザルに盛って食べることになっているのだろうか。
たとえば、豚の冷シャブか何かのように。
それとも、たくさん食べたいということを表現するために、単に大きな器という意味で、「ざる」を持ち出したのだろうか。
しかし、それなら「お腹いっぱい」などと言えば良いのであって、あえて「ざる」を持ち出す意味が判らない。
願文のほうは、「肉」以外は全部平仮名表記であるなど稚拙な印象もあるが、住所、氏名のほうはきちんと漢字で書いてある。
それも、あまり下手な文字ではない。
ごく普通の文字で、淡々と、事務的に記してあって、子供と言っても、少なくとも小学校高学年か中学生以上を想像させるのである。
したがって、余計にこの願主の人品骨柄、置かれた立場が理解できない。
オフザケならオフザケで、もう少し願文にヒネリがあっても良さそうなものである。
オフザケでないなら、ひょっとして何かの病気のために、肉類の摂取を医師から固く禁じられていたりする人であろうか。
それにしても、「ざる」があまりに難問である。