家内安全のまま、
借金返せます様に。
福岡市東区××××
齊藤雅彦
[福岡市 住吉神社]
何だか、不穏な気配もただよう願いである。
この願主である齊藤氏は、借金のあることを明記し、その上で、実に堂々と住所も詳細に書いている。その住所が架空のものだとは思えない。住所を明かすのが嫌なら、書かなければいいだけなのだから。
見上げた男らしさである。
その借金の額も、半端なものではあるまいと思われる。これは書いていないが。
ただ、その男らしい分だけ、どうも最初の一行に、危ない感じがにじみ出ているのである。
借金は返したい、だが、危ない橋は渡りたくない――というのが願文のほんとうの趣旨であろう。
さらに言外には、このままでは危ない橋を渡ってしまいそうだという危惧さえ読み取れるのだ。
――住吉神社の神様、どうか俺を止めてくれ。
ヤバイ真似をして家族につらい思いをさせることだけは、思い止まらせてくれ。
そういう悲痛な願いとも読めるのである。
齊藤氏、その後、何とか詐欺やコンビニ強盗なんぞに走っていないことを祈る次第である。
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