勝利に向かう。
別の舟を造り、
見事それに乗り大海へ。
まずはいざ鎌倉!!
そして黄金の島
上陸する。 午年
三島小町
柳田多門
[三島市 三島大社]
何だか、やたら勇ましい願文である。
勇ましいのはいいが、何のことだかよく判らない。
もちろん、筆者のような野次馬、もとい、研究者に読ませようと思って奉納した訳ではないのだから、判らなくても不思議はない。
ただ、元気の良さが空回りしている印象があるのだが、どうだろうか。
思うに、これは漁業関係者の奉納ではないか。
長年乗っていた漁船が老朽化したか、沈めてしまったかで、新しい漁船を造ろうというのであろう。
「黄金の島」(へ)「上陸する」というのは、別に鬼が島の財宝をぶん取りに行こうというのではなく、いわゆる大漁の象徴に違いない。
「勝利に向かう」というのも、農耕民とは違って勝負師的な気質を持つ人が多い、漁師特有のモノ言いである
「三島小町」と「柳田多門」という、おそらくご夫婦であろう願主の名前は、もちろん筆者が仮名に変えている。
だが、もとの絵馬でも似たような、大仰な感じの仮名であったし、「小町」というのは、原文のままである。
美人の代名詞である「小町」を自分で名乗る元気の良さといい、芝居がかった男性の仮名といい、なるほどこういう願文を書く人らしいと、納得した訳である。
が、判ったようで判らないのが「まずはいざ鎌倉!!」だ。
絵馬への書き方が浮いてしまっているのは偶然だろうが、意味も浮いてしまっている。
「いざ鎌倉」というのは、鎌倉幕府の変事に備えていた地方武士の故事にちなんで、大事が起こったことを言うのだが、この文脈の中で、しかも「まずは」と来ては、意味をなさないのである。
この柳田多門氏は、単に「勝負の時」くらいの意味に受けとっていたのだろう。
ま、たいした話ではないので、いいのであるが。
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